「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト
フリービット株式会社の取締役である酒井穣さんの新書を読みました。「はじめての課長の教科書」というベストセラーになった本の著者ということですが、私は上司からの薦めで知りました。
光文社 (2010-01-16)
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戦略の実行のための人材育成の教科書
人を残す人生こそが上なり。
OJTの問題点を明らかにしてくれた
新人からマネジャー、経営者まで別の視点で読める本
第一章 何のために育てるのか(人材育成の目的)
第二章 誰を育てるのか(育成ターゲットの選定)
第三章 いつ育てるのか(タイミングを外さない育成)
第四章 どうやって育てるのか(育成プログラムの設計思想)
第五章 誰が育てるのか(人材育成の責任)
第六章 教育効果をどのように測定するか
第七章 育成プログラムの具体例
第一印象として「すっと腹に落ちた」と感じました。この内容を早速自社の人材開発に活かしたい。200ページ未満というボリュームで非常に読み易い。著者酒井さんの経験や読書経験に基づき、様々な理論を引用し、納得させうる内容であったと思います。
そして、24歳の若造である私が率直に感じたのは、こんな風に人材育成というテーマを語れるということに、かっこよさを覚えた。人材開発に関わる者としてこういう俯瞰的な思考を持っていたい。
内容は、人材に関わる全ての人が考える必要がある内容だと思う。ここに書いてある方法が正解であるかどうかは分からないが、どれも自分の問題として認識すべきことは疑う余地がないと感じた。
【本書にある名言】
- 国民にとって、パンの次に重要なのは、教育である(ジョルジュ・ダントン(フランス革命期の政治家)) (p.22)
- 企業の利潤、商売の利益というものは、社会に対する貢献度によって決まるものであり、その貢献の度合いによって社会は企業に利潤をもたらす。(飯田亮(セコム創業者) (p.30)
- 私は人間を弱者と強者、成功者と失敗者とにはわけない。学ぼうとする人としない人にわける。(ベンジャミン・ハーバー(社会学者))(p.42)
- 「己より優れた部下を持ち、共に働ける技を知れる者、ここに眠る」(鉄鋼王アンドリュー・カーネギーの墓石に刻まれた言葉)(p.62)
- 面白いことがひとつ増えれば、そして、やり遂げたことがひとつ増えれば、なおのこと、そのたびにあなたの生きる力が増す。(ウィリアム・ライアン・フェルプス(アメリカの教育者))(p.70)
- 笑うのは幸福だからではない。むしろ笑うから幸福なのだ。(「幸福論」アラン)(p.77)
- いまわれわれが重要だと思っている技能や力は陳腐化しうる。しかし新しい技能や力を学習する能力(ability to learn)は陳腐化しない。(ラス・モックスレイ(教育学者))(p.94)
- 貧困とは衣食住に恵まれないことだと思うかも知れません。しかし真の貧困とは、誰からも必要とされない、愛されない、気にかけてもらえないことなのです。(マザー・テレサ)(p.144)
- 教えることは二度学ぶこと。(フランスの哲学者ジョセフ・ジュベール)(p.148)
- 自らに対し、少ししか要求しなければ、成長はしない。きわめて多くを要求すれば、何も達成しない人間と同じ程度の努力で、巨人にまで成長する。(ピーター・ドラッカー)(p.160)
- 教育とは、パケツに水を満たすようなことではない。火をつけて、燃やしてやることである。(ウィリアム・バツラー・イェイツ(アイルランドの詩人))(p.174)
- 教育とは心に残る教師のことである(フレッド・ヘッキンガー(ニューヨーク・タイミズ教育担当編集委員))p.205
【気になった言葉】
- これからの人材育成の実務は、「研修のデザイン」ではなくて、「経験のデザイン」という方向に向かいます。(p.6)
- Employee Success(従業員の成功) (p.7)
- すべての日本人がグローバルな人材市場に投げ出されようとしている(p.29)
- 社会貢献のための学びではなく、パフォーマンスを向上させるための学びを促進させる(p.33)
- 選択肢が多くなりすぎると何も選べなくなる(決定回避の法則)(p.34)
- 人材育成の戦略を立てるための価値観として採用すべきなのが「企業理念」(p.35)
- 企業における人材育成の目的は企業理念の浸透にこそある(p.36)
- キャリアには、誰のニーズを意識して、どんな能力を高めていくのがという視点が求められる。(p.40)
- 積極的学習者、消極的学習者、学習拒否者の3種類の人材がいる。(マイク・ロンバルト)(p.43)
- 企業間の差は、消極的学習者にどう対応していくのかで決まる。(p.46)
- 顧客志向の信念が成長速度を決める。社内顧客と社外顧客。(p.50)
- 守破離。インビジブルメンター。ロールモデル。(p.54)
- 世界レベルで圧倒的な能力がない限りは、人脈の維持・管理において明るさと社交性に代わるような武器はない。(p.55)
- 60秒ルール。他者の好ましい行動を強化するにはその行動が発生してからできるだけ早く褒めたり感謝する。(p.56)
- 失敗は自分のせい、成功は運のおかげと考える癖を持つ。(p.56)
- 「A君はBちゃんのことが好きだけど、Bちゃんが好きなのはC君」人を見る目は人間関係に興味を持つことで養われる。(p.58)
- 問題意識を持ち、自分で調べられる。常識や先入観にとらわれず、他の人には感じられない「引っかかり」を大切にできるゼロベースな思考。(p.60)
- つっこまびりてぃ(他人にツッコミを入れてもらえる能力)をもっている。「他人が笑って許してくれる弱点」を持つことで、周囲の皆から愛されることこそ、成功にとってなくてはならない要因。(p.61)
- 個人の評判の形成とは、個人ブランドの形成。評判の良い人材とは、基本的に自分の責任範囲を超えて、周囲の皆のために自分の何かを長期間にわたって犠牲にしてきた人材。(p.64)
- 自分を諦めない。「君の能力は、そんなものではない」と叱咤激励してくれる家族や友人の存在が絶対に必要」。(p.67)
- ビジネスパーソンに求められるスキルは「技術スキル」「対人スキル」「概念化スキル」の3つ。スキルの配分は、組織内部での地域の高低によって決まる。(p.71)
- ガス抜きの基本は、笑う機会を増やすこと。(p.77)
- 生物学的には、「笑う」という行動のルーツは、「毒を吐き出すときの口の形」(p.77)
- 「will-skill matrix」と「状況対応リーダーシップ・モデル」(p.78)
- 一度自社を退職していった人材を「積極的に呼び戻す」というアクションが無視できなくなっている。(p.81)
- 退職していく人材は、自社の「卒業生」である。(p.82)
- 経験学習モデル。省察には批判的思考が必要。定期的な反省会を作る等。(p.90)
- 自発の経験・座学、受身の経験・座学。優先するのは自発の経験。(p.95)
- 人材育成のデザインは、「教えずに学ばせる」ことを目指さなくてはならない。(p.99)
- 企業に人材育成の文化を根付かせることが、若手の離職率を下げることにも結びつく。(p.101)
- 対話の機会を創出する。居酒屋でも、会議室でもない、第3の場。(p.106)
- 自社のあるべき人材像を明確にする。(p.107)
- 人間の成長は、70%が経験による。(p.120)
- バックワード・チェイニング。常にゴールのテープを切るという成功体験を積ませつつ、徐々に難易度を高めていく-経験のデザイン手法。(p.131)
- 「アフォーダンス」(ジェームズ・ギブソン)。環境は動物に対してなすべきことを誘っている。鏡越しのミッションステートメント(サイバーエージェント)(p.131)
- 教えると学ばないのが人間。自ら学ぶようにしむける仕組みを提供するのが人材育成プログラム。(p.134)
- 「合意のマトリクス」。(「イノベーションのジレンマ」(クレイトン・クリステンセン)他人との合意には「目的への合意」と「手段への合意」があって、相手と自分の合意関係によって、自分の出方をいかに調整すべきかという判断を支援してくれる。(p.135)
- 欧米企業における従業員が研修に参加する時間の平均は、年に40時間も及ぶ。(p.147)
- オフィスにおいては、従業員が「日常の承認」に恵まれる。(『承認欲求』太田肇教授)(p.151)
- 母校として誇りに思える企業かどうか。(p.151)
- 単体ではなくリーグの存在が必要。(p.153)
- 1社で自称「日本で最も人材を育成する会社」と言っても意味がない。人材育成の波を作り、多くの人々が教え、学び合うような環境を作り上げるには、人材育成リーグの構築が望まれる。(p.153)
- 自分の思考は、自分の脳内では完結していないし、それは外側からの刺激を受けて生まれる自分のアウトプットによって深めることができる。チームを組んで仕事をすることが」、自らを高める重要な手段である。(p.158)
- パフォーマンス・マネジメントの鉄則は、「口約束ではなく、文書に残すこと」(p.166)
- 本を読むことが好きになってしまえば、それだけで人材育成の半分までもが完成だと思う。(p.176)
- お互いのことをあまりよく理解していないメンバーがチームを組むとき、そこには経験や知識の違いからくる「論理的なギャップ」と、好みや価値観の違いからくる「感情的なギャップ」が存在する。(p.185)
- 新しいチームが立ち上がるときに、まず取り除かなければならないのは「感情的なギャップ」。(p.186)
【○○のX項目】
○卒啄同時 p.3
- 師匠となる人が(1)弟子が破るべき殻を明らかにし
- 弟子がその殻に向かって自発的にアタックするための情熱を刺激しつつ
- 弟子が殻を破るための手助けをしてあげることが必要である。
○伸びる人材の共通点7つ(高畠導宏)p.49
- 素直であること
- 好奇心旺盛であること
- 忍耐力があり、あきらめないこと
- 準備を怠らないこと
- 几帳面であること
- 気配りができること
- 夢を持ち、目標を高く設定することができること
○顧客志向の測定(トッド・ドナバン教授)p.52
- 顧客を大事にする欲求
- 顧客ニーズを読み取ろうとする欲求
- 個人的な関係を築こうとする欲求
- 求められるサービスを提供しようとする欲求
○リーダー教育のステップ(守破離の守) p.54
- リーダーに求められる行動を言語化し
- 言語化された個々の行動におけるロールモデルを意識的に選び、
- そうした人の真似をする
○リーダーに求められる人を見る目(「CEOを育てる」(ラム・チャラン))p.58
- 自分よりも優れた人材を積極的に集めて活用する
- タスクに対して能力が足りていない部下はためらいなく入れ替える
- 人材間に発生する対立を予測し、見極め、解決する
○企業活動における教育的瞬間
- 内定から入社3年程度までの新入社員期間
- 新しいメンバーで新規プロジェクトが立ち上がるとき
- 出世や異動の前後
- 人材が仕事に行き詰まり、途方にくれているとき
- 人材同士のぶつかり合いが度を越えてしまったとき
- 中途入社の入社前から入社後3ヶ月程度の期間
- 退職の前後
○ケースメソッドで用いられるケース教材の3つの条件 p.121
- ビジネスパーソンを育てる何らかの訓練主題を含んでいること
- その訓練に必要な情報がノイズと共に含まれていること
- ケースの登場人物に困難な決断が迫られていること
○修羅場の経験 p.122
- 業務上の大失敗
- 昇進の遅れや降格
- 部下の問題
- 職制の変更や転職
- 個人的なトラウマ「危機的な経験」「心理的な外傷」
○知識想像が活性化される「よい場の条件」(野中郁次郎教授)p.149
- 意図、目的、方向、使命等を持っている
- 参加者のコミットメントが存在する
- 内部からと外部からの2つの視点を同時にもたらす
- 参加者が直接経験をすることができる
- 物質の本質に関する対話が行われる
- 参加者が自由に出入りできる
- 形式知を通じて自己に体化することができる
- 異種混合が行われる
- 即興的な相互作用が行われる
○熟達の5段階モデル P.170
- 「初心者」原則を理解しつつも、状況による原則の使い分けができない。
- 「見習い」状況に応じた対応ができるものの、シニアの指導が必要。
- 「一人前」ルーティンであればすべて一人でこなせる
- 「中堅所」微妙な状況の違いや、例外への対処もできる
- 「熟達者」状況を的確に判断し、直感でも正しい判断ができる
○チーム・ビルディングにおけるタックマン・モデル p.184
- チームの形成期。メンバーガ集まり、チームの存在意義や目的などを模索している段階
- 混乱期。チーム内の政治的な立ち位置などをめぐり意見の対立が発生する段階
- 統一期。メンバーがお互いの意見を受容し、役割分担や責任が明確となる段階
- 機能期。組織に一体感が形成され、組織の力が発揮される段階
- 解散期。目的の達成やその他の制約条件によって、チームが解散する段階
○フリービットのHCDP p.175〜
- 読書手当て
- 社内ミニブログ
- 将来の自分への手紙
- 突撃☆お仕事インタビュー
- 富士山麓での幹部合宿研修
- 日本語のできない外国人の採用
- ジグソーメソッドによるインタラクティブな学習
- ケースメソッド
○お仕事インタビューで聞き出しいてる内容。(p.181)
- 部署の仕事、自分の仕事
- 仕事の面白いところ
- 仕事の難しいところ
- トレーニング・ニーズ
- 同僚の顔ぶれ
- その他の自由な意見